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DXの取組みは楽しい

3月16日に経済産業省の「DXセレクション2023」の表彰式が開かれ、審査員の一人として出席し、パネルディスカッションにも参加させていただいた。

 表彰式では、グランプリに選ばれた岡山県のフジワラテクノアート株式会社を始め、準ブランプリ2社、審査員特別賞1社、合計4社から受賞スピーチがあり、その後、審査委員長を務められた明治大学の岡田浩一教授、及び福島県喜多方のDXカンパニー、マツモトプレシジョン株式会社の松本敏忠社長とともにパネルディスカッションに臨んだ。

グランプリ、準グランプリ、審査員特別賞4社に共通すること

私は、まず表彰式の感想として次のようなことを申し上げた。

「4社の素晴らしいスピーチをお聞きして大変印象的だったのは、4社に共通する点があったことです。それは、4社とも従業員の育成ということをとても大切に考えられていて、しかも4人のトップとも、DXの取組みを通じて従業員が成長したことを心から喜んでおられました。」

「私は、5年間、ITコーディネータ協会で中小企業の経営者の皆さんの様々なお取組みを拝見してきましたが、デジタル技術を経営の力として活かしていらっしゃる経営者は、同時に人材育成、人材投資にも熱心だということを発見しました。逆に、人材投資に熱心でない経営者は、デジタル技術への投資にも熱が入らないと言えると思います。」

「なぜかと考えると、デジタル技術も、人材投資も、見えないのです。機械や設備のように「見れば判る」という形はない。しかも、投資しても効果がでるまで時間がかかる。だからこそビジョンが大切なのだろうと思います。5年後、10年後、こういう会社になりたい。こういう価値を新たに提供したいというビジョンがあるからこそ、ビジョンの達成に向けてデジタル技術や人材を如何に活用しなければいけないのかが見えてくる。」

「先ほど、フジワラテクノアートの藤原副社長が、「ビジョンを描いていなければ、この取組みはなかった」とおっしゃっていました。まさしくビジョン構築がDXの初めの一歩だと言えるでしょう。DXセレクション2023のなかでも、取り分け優れた4社が期せずして、皆、「実現したい明確な未来の姿=ビジョン」を描き、デジタル投資にも、同時に人材育成にも熱心でいらっしゃることを知ったことは、私の持論を証明してくださったような気がして、大変嬉しく感じました。」

DXの取組みで一番大事なのは対話であり、コミュニケーション

次に、司会者からの「中小企業はなぜDXに取り組む必要があるのか」というご質問に応えて、次のようなお話をした。

「せっかくのご質問を肩透かしするようで申し訳ございません。しかし、「やらねばならない」というより、「DXの取組みは楽しい」ということを申し上げたいと思います。」

「なぜかというと、DXの取組みで一番重要なのは対話であり、コミュニケーションだからです。お客様や株主との対話、従業員との対話、外部支援者との対話、それらが活性化することで初めていろいろな夢が描かれ、夢に向かう道筋が見えてくるのです。」

「今回グランプリをお取りになったフジワラテクノアート様のことを少しお話させていただくと、フジワラ様は創業90年で、日本の機械製麹能力の8割を占めていらっしゃる絶対的な存在です。昨晩、私がいただいた日本酒も間違いなくフジワラ様の機械でつくられたお酒だったと思います(場内、笑)。でも、そこに安住することなく、2019年に、「2050年には、醸造を原点に世界で微生物インダストリーを共創する」というビジョンを掲げられた。顧客への提供価値を、醸造という枠にとどまらず、世界中でパートナーとともに微生物インダストリーを創り上げるというところまで広げられました。」

「このビジョンも素晴らしいですが、そこから先の進め方がさらに素晴らしい。毎月150名の社員が全員集合して、ビジョンの実現に向けた取り組みを全社で共有していらっしゃる(出張等で参加できない社員には社内SNSにて共有)。またお客様からの様々な案件の背景にある「お客様からフジワラテクノアートに期待されていることは何か」を全員で共有されておられる。さらに、全社ビジョンを社員ひとり一人の個人別5か年ビジョンに落とし込まれて、ひとり一人の成長計画に繋げていらっしゃる。」

「こういう取組みをされていると、楽しいですよね(目の前で藤原副社長が頷かれる)。人間って、コミュニケーションがうまく取れると、楽しいし、どんどん新しい知恵が生まれる。それが収益を生み、処遇も向上する。そうすると益々楽しい。DXは、こういう前向きの良い回転に入るための最良の方法論なのではないかと思います。」

左から、株式会社フジワラテクノアートの藤原加奈副社長、小職、同社DX推進委員長の頼純英課長

「DXは「D=Digital」ではなくて、「X=Transform」が大事だと言われます。Transformという英語の語感を最もよく表すのは、さなぎが蝶になることだそうです。さなぎも蝶もDNAは同じ。でも、姿、形、そして飛ぶという機能までもが違う。会社全体でそういう変容を成し遂げられたら、とても楽しいのではないでしょうか。」

経営者の皆さんにお伝えしたいのは、「DXをやるべきかどうか」ではなく、ます一歩足を踏み出して様々なステークホルダーと対話を始めてみてください、そこから道が開けてきます、それは大変なこともあるかもしれないが、楽しい道だということです。

DX経営研究所は、皆様の対話の相手となることを目指して、誕生しました。中尾も私も、経営者の皆さんのお話をお伺いし、いろいろ対話をさせていただくことが大好きです。是非、ご一緒に楽しいジャーニーに出ましょう。お待ちしております。

✔ DXセレクション2023の表彰式の模様は、以下の経済産業省URLから動画が配信されておりますので、ご覧ください。https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html